藤の子

運ばれてしまった隣家の住人に向けて

勝手な感傷として酒でも手向けたいが

当人が酒を愛したかがわからない

花でも挿そうにも花言葉がわからない

そういえばわたしは音楽をやるけれども

その人が好きだった音楽がどのようなものかもわからないし

それを自分ができるかもわからない

意味だったり意義だったり、慣習

こまやかな、あってもなくてもいいような営みの文脈

そういったものを捉えていない生き方が、こういうとき、さみしい

けれどやっぱり

それを全て自分に触れさせることは、できないとも思う

どこかで、勝手に生きている自分の形が、

たった一人分だけ、この世界の中身になったらいいけど

それを確かめるための、やはり勝手な方法として

住人との、ほんのわずかばかりの思い出を探りながら

いま、自販機でカルピスソーダを買って帰った